SUSTAINABILITY
私たちイーオクトが考える「サスティナビリティ」とは、難しいことではなく、
誰もがただほんの少し、日々の暮らしを、消費行動を見直して、行動を変えること、進化すること。
第8回 医療における環境問題とは?(1)
医療における環境問題とは?
まず、簡単にスウェーデンの医療システムについて説明します。
スウェーデンでは、医療はランステイング(広域行政)の管轄です。このランステイングというのは、日本の県と比較できます。
日本で県議会議員を選挙で決めるように、ランステイングの議員は比例代表の選挙で決まります。
日本と違うのは、ランステイングの管轄は、広域で取り組んだ方が効率の良い、公共交通機関と医療(歯科も含む)の二つに限定されています
保育園、義務教育、高等教育、生活福祉、高齢者福祉、余暇、廃棄物処理、エネルギーなど一般市民の生活に身近な事業は、全てコミューン(市町村)の管轄です。
高い税金で支えられている医療制度
スウェーデンの医療センターや病院は、ランステイングの責任下にあります。
一部の医療センターに民間経営もありますが、その資金はランステイングから出ています。日本のように、純粋な私立病院はありません。
市民は、病気になるとまず医療センターでハウスドクターに診てもらい、それから病院の専門医を紹介してもらうシステムになっています。
診察料は医療の内容により、70~120kr(938円~1,608円)で、900kr(12,060円)が上限で、それ以上になると、その年の診察料は以降無料になります。
子どもは、成人するまで無料です。処方箋による薬代も上限があり、上限額を越えるとその年は無料になります。
このようにスウェーデンの医療制度は、国民の高い税金に支えられているのです。
ストックホルム ランステイングの事業
ストックホルム県の人口は、約200万人です。毎日、4万人の患者の診療がされています。
また、70万人が公共交通機関を使い、9000人の身体障害者や高齢者がタクシーを利用し、11000人が連絡船で通勤しています。
ストックホルムのランステイングは、これらの事業における環境の負荷を削減するために、2007年~2011年の5年計画で環境ビジョンと環境目標を立てています。下記にそれらを紹介します。
ランステイングの総括的なビジョン
ランステイングは、総括的なビジョンを持っています。
「ランステイングは、健康と医療(歯科を含む)、公共交通機関のサービスを住民に提供しているが、その事業が全住民の健康と生活環境をより良いものにすることを目指す。また、ストックホルムの豊かな自然を保全しながら地域のエコロジカルな持続可能な発展に貢献する。」
そして、この総括ビジョンを満たすためのロードマップを描き、そのステップとして、2007年~2011年の5年間で達成するべきビジョンとアクションプランとしての5つの環境目標を立てています。
ランステイングは、ストックホルム県の住民への情報誌の中で、自分たちの対策は、おそらく世界で最もハードルの高い環境目標だろうと言っています。
確かに、彼らの目標レベルは、非常に志が高いものです。後の説明と少し重複しますが、そのレベルを理解してもらうために、最も顕著なものを下記に記載します。
2011年までの達成目標例
- ランステイングの乗用車と輸送車に使う燃料の50%を再生可能な燃料にする
- 電源と冷房のエネルギー源を全て環境に配慮されたものにする
- 下水処理場からの排水に含まれる最も環境に有害な薬品の含量レベルを2005年のレベルより低くする
- 笑気ガス(※注)の排出を2002年比で75%削減する
※肥料の使用や化学物質の製造過程で出る亜酸化窒素が、2009年時点でオゾン層を最も破壊する物質であることを、アメリカ海洋大気圏局の研究チームが突き止め、2009年8月28日付のアメリカの科学誌『サイエンス』で発表した。 - ランステイングで使われる危険な化学物質と化学製品の25%を廃止する
- 資源の節約、再利用、リサイクルを考えた購入を優先する
笑気ガスを使っている妊婦の写真
ビジョンと目標は「建前」ではない
ランステイングのビジョンと環境目標の全てをご紹介します。
安全な薬品リスト
これらは、ストックホルムのランステイングにある全ての医療センター、病院、公共交通機関の会社が、自分たちの事業のビジョンと目標に統合して実践し、環境報告書として毎年報告しなければなりません。
ランステイングのビジョン・環境目標は、かなり高いので、「建前」に終わらせないためには、よほど本腰を入れないと達成できません。
模範例と成功の秘訣は次回に詳しく書きますが、ランステイング側からのムチの対策として一つ効果的だったことがあります。
それは、もし、ランステイングのビジョンと目標を達成するための対策と努力が怠慢で目標達成度が芳しくない病院があった場合、ランステイングから支給される経営費がカットされるのだそうです。
それも、努力するインセンティブになっていると次回紹介するカロリンスカ大学病院環境部の担当者が語っています。
アクションプランとしての5つの環境目標
- 輸送
ビジョン: 公共交通機関の燃料を全て再生可能な燃料にする
大気汚染も騒音問題もない。健康と環境に害を与えない
住民の公共交通機関の利用率が高い
2011年の達成目標
乗用車と輸送車の燃料の50%を再生可能な燃料にする
粉塵、NOX(化石燃料を燃やすと出る排出物)を激減する
騒音問題を継続的に削減していく - エネルギー
ビジョン: 暖房、冷房、電気のエネルギー源を全て再生可能な燃料にする
建物のエネルギー使用を、効率化、省エネで最小限にする
2011年の達成目標
2000年比でエネルギー使用量を増やさない
冷房と電力のエネルギー源を全て環境に配慮したものにする
暖房エネルギー源の75%を再生可能なものにする - 薬品
ビジョン: 残留薬品が、土壌、水、大気に害を与えない
2011年の達成目標
環境に最も有害な薬品の下水処理場、湖等の水に含まれる
残留薬品の濃度を2005年レベルより低くする
2002年比で、笑気ガスの排出量を75%削減する - 化学物質と化学製品
ビジョン: 化学物質の使用による健康と環境への害を無くす
2011年の達成目標環境に最も有害な薬品の下水処理場、湖等の水に含まれる残留薬品の濃度を2005年レベルより低くする
2002年比で、笑気ガスの排出量を75%削減する - 購入(製品、建材、使い捨て製品、食料品)
ビジョン: 省資源、再利用、リサイクルを考慮した購入の推進
2011年の達成目標
化学物質の全廃リストに掲載されている化学物質を含む製品、建材は購入しない
食材の25%をオーガニックにする
環境対策のツール
これらの目標を達成するためのツールとして、次のことを取り上げています。
□環境マネージメントシステムのISO14001の認証を取得する
□グリーン購入を優先する
□全職員が環境教育を受け、自分の職場で環境対策に取り組む
□環境配慮した医療の研究成果を導入する
医療における環境問題は薬品と化学物質/化学製品
ランステイングのビジョンと5年間のアクションプランは、ランステイングの公共交通機関と医療の二つの事業をカバーするものです。
輸送とエネルギーは、特に公共交通機関の部門の事業に関するものと言えます。
もちろん、病院においても、輸送やエネルギー対策が重要ですが、医療における最も著しい環境問題は、【薬品】と【化学物質と化学製品】のこの二つだと言っても過言ではありません。
医療における化学物質と薬品のリスク
医療における化学物質や薬品が、人々の健康と環境に害を及ぼすリスクがあることについては、スウェーデンでは、過去10年ほど社会で非常に多く議論されてきました。
特に、抗生物質の使い過ぎが、結局、人間の免疫性を無くし、抗生物質に勝る新しい菌の登場につながることが問題になっています。
すでに、病院においてそのような新しい菌が見つかり、既存の抗生物質が効かないため患者が亡くなるということが起きています。
また、薬品が下水処理場で浄化されず、川や湖、海に流れ、魚の生殖機能に影響を与えたり、人間の体内にも蓄積したりするなどの問題が指摘されてきました。
日本でも、プラスチック製品に含まれる環境ホルモンの問題は、1998年から注目されてきていますが、医療に使う薬品の影響に関しては、薬は人間の生命を救うという理由があるため、厳しい規制の必要性の議論はあまり言われてこなかったのではと思います。
今回、カロリンスカ大学病院の環境部のスタッフにインタビューをして、病院の現場では、この問題を非常に深刻に捉え、積極的な取り組みがされていることを知り感心しました。
次回は、そのカロリンスカ大学病院の現場での環境対策についてお話をいたします。
イーオクトのすべての軸である「サスティナブル」について、詳しくご紹介します。
わたしたちのサスティナビリティへの幕開けは1990年10月から。イーオクト代表、高橋百合子による環境先進国スウェーデンの「リサイクル社会を実現するための環境機器」輸入事業開始…