SUSTAINABILITY

私たちイーオクトが考える「サスティナビリティ」とは、難しいことではなく、
誰もがただほんの少し、日々の暮らしを、消費行動を見直して、行動を変えること、進化すること。

COLUMN :第14回(2012.07.27)

第14回 企業が世界を救うべきか?(最終回)

企業が世界を救うべきか?

先日、ストックホルムでスウェーデンの環境保護庁、県、自治体、企業、大学や研究所、NGO等で、日常業務でプロとして環境に携わっている350人と環境大臣が集まるという大きな環境シンポジウムがありました。

COP15の失敗後、そして、リオ+20が終わった後も、政治面では、環境政策が遅々として進んでいません。そのような現状を踏まえてのシンポジウムでしたので、最初のパネルディスカッションでは、政治的な解決に期待ができないので「企業が世界を救うべきか?」という挑発的なテーマが議論されました。

 そのパネルディスカッションの前の基調講演では、ノルウェーで環境に熱心なので環境アクティビストと言うニックネームがついている大手ホテルチェーンの社長が登場し、「今まで通りのビジネスのやり方では将来がない。」と企業が環境のリーダーシップをとる重要な役割があると意見を述べました。

もう一人の基調講演のスピーカーは、国際NGOナチュラル・ステップの創設者ロベール博士でした。

ロベール博士は、「企業のトップが、まだ戦略的に環境とサスティナビリティへの対策が必要であることを理解していない。世界の一番大きい環境問題は、「貧困」ではなく、リーダーシップが欠けていることだ。」と発言しました。

このセッションでは、パネリストと聴衆とのやりとりもあり、スウェーデンの今の環境に関する論調、コンセンサスを読みとることができました。

 

今まで通りのビジネスのやり方では将来がない。

環境問題に関しては、スウェーデンの環境専門家、企業の人たちの間にコンセンサスがあることが分かりました。



上の図は、国際NGOナチュラル・ステップが20年前から示してきた図です。環境問題は資源の問題です。今、企業の事業展開にとって欠かせないエネルギーや自然資源が漏斗のように先細りになってきています。それゆえ、この図のように、企業は未来の変化を読んで先手を打ち、漏斗の壁にぶつからず、経済的な損失を発生させず、将来、生き残ることができるようにしなければなりません。

省エネ・省資源の対策は現時点においても採算が合います。そして、更に長期的な戦略を立て、再生可能なエネルギーへ投資することも将来、生き残るために必要です。

 

企業はほんとうに環境のために頑張っているか?

聴衆にこの質問がされ統計が即座にとられました。回答は:

3%   とても良く頑張っている

54%  一部の先進企業はとても良く頑張っているがその他の企業は全然努力をしていない。

44%  感心するほど取り組んでいない。

という結果で、かなり企業に厳しい評価が出ました。そして、なぜ、もっとプロアクテイブな企業が増えないのかという議論がありました。

その理由として、企業のトップがまだ理解できていないという意見がありました。その他に、企業側がその最も大きな理由として挙げたのは、政府が「企業の自主的な対策」に任すからだという意見でした。

先進的な企業は、もっと政治家が厳しい要求をするべきだと主張していました。おそらく、スウェーデンの先進企業にこの考え方が多いことが、日本との差ではないでしょうか。

日本の環境先進企業も本心では、そう考えているかもしれませんが、日本の企業の論調は、経済連が決めているため前に出てこないようです。

パネルディスカッションに登場したスウェーデンの大手企業のトップたちの議論から、はっきりとこの点においてコンセンサスがあることが今回のシンポジウムで分かりました。

 

先進的な企業の役割は、今後、益々重要になる

スウェーデンは、ロハスという環境や健康を考えて生活をする人たちの割合が35%で国際的にトップクラスにあると言われています。しかし、そのような行動がとれるのは企業が先に、環境に配慮した製品やサービスを提供するからです。

今後、先進的な企業が世界の持続可能な発展において果たす役割は、益々重要になると思います。それでは、どのような取り組みが先進的で望ましいのかというと、下記の二つの特徴があると思います。

1: 製品よりサービスを売る

長年、望ましい環境対策として、製品ではなくサービスを売るべきだと言われてきましたが、なかなかそのようなビジネスを始める企業が登場してきていませんでした。ところが、最近、少しずつ現れてきています。「製品よりサービスというビジネス」の最近の良い事例としてはSpotifyというスウェーデン発の音楽のストリーミングサービスがあります。これを利用することによってCDを買う必要がなくなったのは非常に画期的です。

SUNFLEET(カーシェアリングの会社)

その他の事例としてはカーシェアリングがあります。スウェーデンで、個人だけでなく、企業や自治体も対象に売り出す企業が出てきました。そのお陰で公用車を買わずにカーシェアリングをする企業や自治体も増えてきました。この会社はサンフリート社(http://www.sunfleet.com/)といいますが、以前は、ボルボ自動車会社の一事業でした。現在、彼らは、スウェーデン最大のカーシェアリング会社で、16,800人の会員が27都市にいます。そして、車は全てエコカーで500台になります。このサービスを1ヶ月に1万人が利用しているとのことです。


カーシェアリングのエコカーの一つボルボの電気自動車
(写真: Volvo)

 

COOP

もう一つの事例として、このシリーズで以前ご紹介したCOOPが最近、サービスを売るという新しい事業を展開したのでご紹介します。

このサービスはCOOPが、多大な水とエネルギーを使って生産された食品を、消費者が夕食のメニューに合った効率的な買い物ができないために、20%も捨てられている現状を解決するために始めたものです。

インターネットで夕食メニューのレシピと、それに必要な分揃えた食品のパッケージを売るサービスです。



(イラスト: COOP HP)

これも、環境を考えると画期的なサービスで対策になると思います。結構、若い人たちに人気があるようです。


2: 法整備や消費者の意識を待たずに思いきった対策をする

環境対策がしやすい条件が整ってからでないと環境対策ができないと言う企業は、「体力がつくまでジョギングできない」と言っているようなものだとナチュラル・ステップは言います。

その通りで、環境関連の法律が整っていなかったり、消費者の意識がまだ低かったりという問題があっても、先進的に取り組んでいる企業があります。これから、必要なのはそのような先進性と思いきった対策をする企業です。

 

IKEA

そのような先進的な企業の一つに、ナチュラル・ステップ・スウェーデンの最初の顧客、IKEA社があります。

 彼らは、様々な環境対策をしてきましたが、最近、全店舗のエネルギーを再生可能なエネルギーにするという高い目標を掲げて投資を始めています。そして、6月にIKEAはスウェーデンで30基の風力発電所の建設に投資をするという大きな決断とステップを取りました。スウェーデンの北の山脈地域で風力発電所に最適の場所に今年の夏から建設が始まります。陸上の風力発電所のプロジェクトとしては北欧最大の規模です。これで、2015年からスウェーデンの全店舗と近隣国のIKEAの電力を賄えるようになるとのことです。この投資によってスウェーデン国内に雇用も生まれ、良い先進事例となると思います。

 

積水ハウス

日本にも国際的に誇れる環境先進企業があります。その一つが、ナチュラル・ステップ・ジャパンと2001年よりパートナーシップで取り組んできた積水ハウスです。

 彼らは、まだ、消費者のエネルギー意識もなく、再生可能なエネルギーのニーズも少なく、エコポイントやFIT(固定価格買取制度)などの国の誘導政策もなかった頃から、環境を本業の戦略に据えて太陽光発電に投資をしてきました。

 そして、昨年の福島原発事故により、急に、社会のエネルギーへの意識が高まり、自分のことは自分で守らなければならないというように価値感に変化が起きました。積水ハウスは、この震災後の急速な社会変化に対応すべく被災後も自宅で自立して生活ができる、世界で初めての太陽光発電、燃料電池、蓄電池と3電池装備の住宅を売り出したのです。


(写真: セキスイハウス)

また、積水ハウスの太陽光電池と燃料電池がついた住宅は2011年度に新築戸建分野で比率が77.9%になりました。時代が追い付いてきて、環境への長期戦略投資が成功した良い事例だと思います。

 

世界を救う責任はだれが負うべきか?

パネルディスカッションの最後に、この質問が大会の参加者に向けられました。

回答の結果:

27% 政治家と法律を作る官僚

6%  産業界

67% 産業界、科学者、NGO,政治家

 

この数値が語っていることは、企業が率先してリーダーシップをとることは必要ですが、企業だけで世界を救うことはできない。産業界も、科学者も、NGOも政治家も皆が責任を持って取り組まなければならないという考えが主流だということです。

また、企業がもっと取り組みやすいようにするためには、炭素税を上げるとか、環境にやさしい製品の方が安くなるような誘導政策をするなど法律を整える政治家や官僚の責任が大きいという考え方も30%弱と多いことが分かります。

 私は、この観点において、日本とスウェーデンの論調に大きい差があると思います。日本の論調には政治家への「あきらめ」があると思います。

 しかしながら、政策が足を引っ張っていることは多々あります。それを変えるのは政治家の責任です。そのコンセンサスが日本にはないことに私は危機感を感じています。

 日本の環境対策が進むかどうか、3.11後の復興が進むかどうか、全てにおいて、鍵を握っているのが政治家のリーダーシップです。

 それゆえ、政治家に言ってもだめだとあきらめず、彼らに環境政策の責任をとることを要求していってほしいです。

 

ケチャップ現象が必ず起きる

瓶の中のケチャップがいくら振っても出ないけれど、振り続けると、どっと出てくる現象をケチャップ現象と言います。

 日本の政治も、あきらめずに要求をしていけば、ケチャップ現象が必ず起きます。それを、「何が違うのスウェーデン」シリーズの最後のしめくくりの言葉に、読者の皆さまにエールとして贈りたいと思います。

 

私の記事を読んでくださった読者の皆さま、どうもありがとうございました!

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